遠くから来た旅人ほど、嘘が大きいという。 それが遠方であれば、話の真偽を確かめられる者は大方その場にいない。ちょっとした異国ばなしをせがまれているうちに、語り手はつい話を膨らませてしまうのだろう。 今この窓の下で繰り広げられている光景が、ちょうどそれだ。 砦の中庭である。 交替を済ませた歩哨が、五~六人車座になって焚き火を囲み、夕めしの粥をかきこんでいる。 がやがやした話し声は入り混じらず、塔の壁をまっすぐかけ登ってくるので、最上階にある私の独房からも、内容がよく聞き取れた。 |
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「誰だ」 声が闇を裂いた。 私は背中を向けたまま、動かずにいた。 「銃を持ってるぞ」 声の主は調理場の床を確かめながら近づいて来る。 私は相手を怖がらせないよう、ゆっくり振り返りはじめた。踏み台の上なので天板が狭く、慎重に足を踏み変える。 息を吐く気配がした。 「あんたは幽霊か?」 「違うわ」 間の抜けた返事をすると、人影がぶらりと片手を下げた。 「ああ。違うと分かったから聞けるんだ、こんなこと」 |
放たれた矢が、いくら「自由だ」と叫んでも、方向は射手によって決められている。 買い物から戻った娘のシキが息を弾ませ、 「どうもついてきた人がいる」 ような気がする、と言う。しきりに話しかけられた感じもする。その“感じ”って何かと聞かれても、と、要領を得ない話に父親のアリンがジリジリしていると、青銅の門扉をガシャンと揺らして男が立った。 「ああ、いた …… 」 「何だあんた」 |