夢の歌
  
はじまりの島(8)
しんあいなるティモシーへ


このあいだのつづきです。いっしょうけんめい説明したのですが、描きあがったフロックコートの絵は、あんまりみんなの気に入りませんでした。


ケテアたちは「ちょっと地味ね」と言い、おじさんたちは「普段の仕事着にはいいが、わざわざ異国風と言って売り出すほどではないな」と言って、リトは「こういう飾りのないのも、いつか流行るかも知れないがなあ」と言いました。


王都のおしゃれな人たちは、肩や胸にたくさんひだを取ったり、飾りひもをめぐらせたりするのだそうです。飾りがないほうが紳士服は素敵なのよ、ということを言ってあげなければいけません。胸にじゃらじゃらした飾りをたくさんつけていたティモシーのパパの正装より、何もつけていなかったお兄さんのほうが私は好き。


ウソがなくなって、私はその次の夢では、もともとの姿で境い目の空に行けました。茶色いマヤルもアリスのドレスが似合うとみんなが言いました。歌もじょうずに歌えました。でも、私はまだひきがえるさんに内緒にしていることがあります。ウソをついているわけではないけれど、どうしよう、黙っていたほうがいいような気がします。言ったら気を悪くすると思うから。ティモシーもこっちへ来たときは、うちのフライのことはどうかひきがえるさんには黙っていてください。


■■■

「うちのフライ?」
 グレッグは手紙から顔をあげてマロリーを見た。
「つづり間違いかな? 何のことでしょう」
 マロリーも首を振った。
「きっと、ティモシーとの間だけで通じる出来事でしょうね。意味が分からなくて、本には使わなかったところもたくさんあるんですよ。まあ、私信ですからね」
 なるほど、とグレッグはうなずいたが、
「この手紙はそもそも、どこで入手されたんです? あなたがティモシーではないんですよね」
「とんでもない」
 グレッグは、自分でも首を横に振った。
「ですよね。手紙のこの古さだ、マヤルから手紙を受け取ったティモシーがどんなに長生きでも、もう生きているはずがない。あなたは……血縁のかたなのでしょうか?」


「サクルトンさん」
 マロリーは穏やかな表情のまま、いずまいを正した。
「あなたは、私の著作のオリジナリティに疑問をお持ちで、今日はその調査にいらしたのですね?」
「いえ、そんな」
「しかし、とてもこだわっておられる。ただお子さんが私の本のファンというだけではなさそうだ」


「何からお話すればいいやら……ええと」
 グレッグは言いにくそうに口ごもった。
「うちの母がですね、ずっと話してくれていたベッドタイムストーリーがありまして、それが、あなたの本にそっくりなんですよ」
「私が、盗作をしたのではないかと?」
 グレッグはさっと片手をあげた。
「いえ、そういった問題ではないのは承知しています。母が執筆した原稿があるわけではないですし」


 マロリーはふむ、と息を吐いた。
「あなたは人気作家であると同時に、古今のSF作品のプロットを厳しく検証する、容赦ない批評家としても有名だと聞きました。会って作品について質問したい、というあなたからの連絡を取り次いだ編集者は、えらくビクビクしとりましたよ。とうとう童話の分野にも矛先がってね。盗作問題でないとすれば、何かそういう、構造の誤りについての指摘でしょうか?」
「いえ、違うんです、そういうことでは全く」
 グレッグは慌てて言葉を継いだ。
「母は“あっちとこっちの境い目の空”の話を、自分が夢で見たんだと言って話してくれたんです」
「ほう」
 マロリーの顔に笑みがのぼった。
「まるでマヤルみたいだ」
「でしょう?」
 グレッグも緊張を解いた。


「マヤルと母は、世代を超えて同じ夢を見てしまうような、なにか共通する体験をしているんじゃないかと思ったわけなんです。それで、マヤルのモデルになったお子さんに会えたらと思って、うかがったのですが」
 小さく首を振りながら、手の中の茶色い書類を見つめた。
「まさか、こんな古い時代のことだったとは……

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