はじまりの島(7)
「【歌い手】の話なら、誰だってそばで聞きたいわよねえ」
臨時のお針子候補たちの言い分に、他の者も、もっともだとうなずいた。
マヤルはふと周りを見渡した。
「ねえ、だけどここにいるのは大人ばかりよ。この街には、子供はいないの?」
「子供は、【歌い手】との交流を禁じられているのよ」
「ええっ、どうして? 一緒に遊びたいわ」
皆困ったように顔を見合わせた。
「だめなんだよ」
「子供同士はね。まだ成熟してない小さな子は、不用意に何か言って【歌い手】を傷つけてしまうかも知れないし、仲良くなったらなったで、別れたくないと駄々をこねるかも知れない」
「貴重な【歌い手】の訪問は、皆の財産だからね、うんと慎重に扱うことになっているの」
「そう……」
マヤルは残念そうにため息をついた。
「でも、歌は子供たちも聴いているから」
「建物の中まで届くように、うんと響かせてあげて」
マヤルはこくりとうなずいた。
「わかったわ。次はもっと楽しい歌を歌うわね」
「楽しみにしてるよ」
「そうだ」
仕立て屋がポンと手を叩いた。
「そのときまでにドレスも完成させておくから、試着してみてくれよな、マヤル」
「うん!」
大人たちはホッと笑みを交わし合った。
「ねえリト。そのドレス、大人用にも引きなおして仕立ててよ。袖のところなんて素敵だもの」
娘たちの一人が言うと、仕立て屋は、
「そのつもりさ。リトの店にしかない異国風ドレスだと言って、うんと宣伝してくれよ」
カウンターに立ててある、自分の名入りのロゴプレートをコンコンと叩いた。
「お前んとこなんか小さい店だから、こういう売りがないとな」
年かさの男が励ますように言うと、
「これからは王都じゅうに、“不思議の国”風が流行るかもね」
「紳士服もあるといいなあ」
わいわいと話が広がる。
「大人の正装も素敵よ。ティモシーのパパやお兄さんが、フロックコートで出かけるのを何度も見たわ」
得意げに言うマヤルに、
「ほう」
「ふろっくこーと」
「それは、ここへ持ってきてもらうことはできないだろうかね」
大人たちは興味ぶかげに頭を寄せ合った。
「きっとダメね。ひきがえるさんによれば、次来るときは、私は本来の姿だろうし」
「うーん。その、ふろっくこーとを着てる自分を想像しながら寝る、とか?」
皆期待を込めてひきがえるの方を振り返ったが、ひきがえるは静かに首を横に振っている。
「マヤル、それ大体でいいから形を言えるかい?」
そう言ってリトはカウンターの下から注文票を出して裏返し、ペンを手に取った。
「まかせて。写真もあったからいつも眺めてて、細かいところまで覚えてる」
「いいぞ」
リトは張り切ってペンをかまえた。