夢の歌
  
はじまりの島(12)
ただのカエルに戻ったひきがえるさんは、沼地にいる他のカエルのように、短い一生を生きて、すぐに死んでしまうそうです。私は悲しくなって「死んだらまた生まれ変わって会いに来て」と言いました。ひきがえるさんは「それは“りんね”だね」と言いました。以前、ひきがえるさんにお坊さまから聞いた話をしてあげたことがありました。ひきがえるさんはあまり“りんね”の話が好きではありません。


“りんね”は永劫に続く辛くて苦しい責め苦だから、お坊さまたちは修行をして、なんとか“りんね”から抜け出そうとしているのです。お坊さまと違って修行ができないマヤルたちは“りんね”を抜け出すことは出来ないので、せめていつも人間に生まれ変わることができるよう、功徳を積まなければいけません。人間以外の生き物に生まれ変わることは、業罰なのだそうです。


“りんね”の話をしてあげた時、ひきがえるさんは「カエルになってしまった私は、今とても大きな罰を受けているわけだな」と言って、しばらく横を向いて、何度もノドをふくらましていました。怒っていたのだと思います。


ひきがえるさんが次に生まれ変わるときは、業罰を受けずに済んで、人間になって欲しいです。でも、うちのフライもみんな生まれ変わって私に会いに来るかも知れないと思うと、ちょっと困ります。


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「あ、また“うちのフライ”だ」
 グレッグは、文字を追いながら楽しそうに息をついた。
「ティモシーは驚いたでしょうね。何年もあとに、懐かしいマヤルから、こんな突拍子もない手紙が届いたんだから」
 ページをめくりながら、目を細めて笑う。
「始めから終わりまで、境い目の空一色だ」
「サクルトンさん」
 マロリーが言った。
「あなたもマヤルを好きになってくださったのですね」
 グレッグはうなずいた。
「ええ。私も妻も、本のマヤルを好きでしたが、こうして彼女が実際に書いた文字を見ていると……
 書類を見つめて微笑みながら言葉を詰まらせたグレッグに、
「とても嬉しいです、ありがとう」
 マロリーも暖かく笑顔を返した。


「そもそもこれは、どうして売りに出されることになったんでしょう? ええと、大人になったティモシーが売ったのかな?」
 グレッグはパタパタと書類ばさみをひっくり返し、首をかしげた。
「サクルトンさん、こういう郵便資料は大抵、切手や消印のついた宛名面だけに焦点が置かれます。つまり、扱うのは封筒や葉書だけです。郵趣家の手元に長らくあったものも、実は封筒だけでした」
「封筒だけ? じゃあ、中身はどうやって」
 グレッグが見つめると、マロリーは、片手をはさみのような格好にして軽く振った。
「マヤルは封筒を切り開いて、まずその内側に書きはじめたんですよ。紙を節約するためにね。いっぱいになったら便箋を使って」
「なるほど。しかし」
 グレッグは書類ばさみのあちこちをめくった。どの手紙も、書き出しから末尾の挨拶まで、話のつながりが抜け落ちずに、すべて揃っている。
 マロリーが答えた。
「私が子供の本を書いているというので興味を持つだろうと、友人がまず封筒の内側を見せてくれたのがきっかけでした。読んだ途端にとりこになりましたよ。どうしても、続きが読みたくなった」

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