夢の歌
  
雲の果て(9)
「今、今今、見ました?」
「おお、何かがザアッと通り過ぎて行ったよな!」
 男たちは目を輝かせ、ベルトをしたままシートから立ち上がりそうになっている。
「サクルトンさん、見たでしょう?」
「あの、今ちょっと手元を見てて……
 マユミは申し訳なさそうにカード端末を振ってみせた。


「一体は確かにヒト型でしたよ! 小柄な幼生で、そばかすがあって、そうだ、写真のお孫さんにそっくりだ!」
「やめてよ、そんなことで研究施設使用の許可なんか出さないわよ」
「いえホントに、明るいグリーンのフードをすっぽりかぶって」
「グリーンの?」
 聞きとがめたマユミの隣で、年かさの方はすっかり興奮していた。
「あんな一瞬でそこまで見分けたか! さすが若いだけあって動体視力が」
「で、映像は録れてたの?」
 マユミがたずねると、男は手元のカメラを見て口をあんぐりと開けた。
「あっ、電源入れてなかった……
「なにー?」
「説明に夢中になっていて、つい、ああ」


 若い方はへなへなと自分の膝に両手をついた。
「こないだはてっぺんからずっとカメラを回してて、肝心なとこでバッテリーが切れてしまったしなあ」
「まあ、次だ次。この教訓を次へ生かそう。初歩的すぎるミスだが……
 年かさの方も勢い込んだ反動が来たのか、ぐったりとうなだれている。


 しょげ返った二人を見守りながら、マユミは肩をすくめた。
「こんなおっちょこちょいのエンジニアにエレベーターのメンテナンスを任せてていいものかしら。そっちのほうが不安よ」
 辛らつな口調は二人を元気づけるためだったのだが、
「あの、いや、サクルトンさん」
「我々仕事はちゃんとやっていますから」
「会社のほうに報告されるんでしょうか?」
 彼らには冗談が通じないのを忘れていた。二人揃ってどうしようもなく狼狽している。


「エレベーターそのものに関しては、我を忘れるほど好きってわけじゃないですから」
「いやホント、眠りながらやったって手順を間違わないくらいです」
 必死で弁明する二人に、
「それは……安心だわ」
 マユミはなんとかうなずいてみせた。