男たちはすぐに立ち直り、今後の方針についてあれこれ話し合っている。
(黙っておこう。あの二人が調子に乗ったら家に帰れなくなるわ)
マユミはもぞもぞと座りなおした。
(まあ、見たと言っても照明が白くチラついた程度のものだったし……)
シャトルが減速を始め、マユミはゆるやかな加重を感じながら目を閉じた。
(白い雲の中をこう、突き抜けたような)
(ふかふかの雲に、倒れこむ)
マユミの頭の中に、子供のような身軽さで、白いふかふかしたものに倒れこむ、深い安堵と喜びのイメージが満ちた。
(ああ、我が家の居心地のいいベッド)
マユミは笑みを浮かべながらうっとりとため息をついた。
■■■
「待ってマヤル、まだ未来へ行くつもり?」
ジャックはマヤルのあとを追って立ち上がった。
「だめだよ、歌を歌いに来て。ひきがえる師の伝言は?」
熊はまた泣きそうになっている。
マヤルは熊とカエルに手を取られ、雲の中を数歩歩いた。
「でも私、どうしても探さなきゃ。ティモシーは何か間違えて、すごく未来に行っちゃったのかも知れないし……」
首を振ってきっぱりと立ち止まったそのとき、
ぶうん、ごおっ!
マヤルたちが立っている場所を突き通るようにして、何かがすさまじい速さで駆け抜けて行った。
「うわあ!」
「きゃああ!」
とっさに雲の中に転げ込んだマヤルたちが呆然と見上げると、そこには
「エレベーターだ、もう一基の……」
今まで立っていた場所に、さっきまで見ていた塔と同じような、チラチラと透き通った姿で、もう一本の塔が出現していた。
「エレベーターは、二本もあるの? 私のちっちゃな島に?」
マヤルは口をあんぐりと開けて、少し離れた場所に並んでそびえ立つ、二本の巨大な塔を見比べた。ジャックがよろよろと立ち上がる。
「ううん、こっちは初号機。タプロバニーから見ると地球の反対がわにある、南米ガラパゴスの……」
言いながら、ジャックもぼんやりとしている。
「初号機のふもとのガラパゴス市国には、ボクのおじいちゃんとマイミが住んでるの」
「へえ」
「エレベーターのある浮き島には、アクセス市国からの連絡艇しか近寄っちゃいけないんだよ」
「ふうん」
塔に見とれながら、気が抜けたような会話をかわしているうちに、
「あ、ああ、消える……」
あとから現れた方の塔は姿がゆらゆらと定まらず、そのままロウソクが吹き消されるようにしてかき消えた。
「完全にこっちに来れてないから、不安定なんだよね。あっちの物は普通、夢でボクらが空を繋いでいる間は、雲の中にとどまっていられるはずなんだけど。先に消えちゃった」
ジャックがつぶやいている横で、熊がくすくす笑いながら、
「ねえ、ぼくたち、通り抜けちゃったねえ」
塔の壁から転がり出た時の、自分たちの慌てた身振りを再現してみせた。
ジャックも笑い出し、もう一度マヤルの手を取った。
「そうだマヤル、一緒にお城でこのことを歌おうよ」
「ううん」
マヤルはやはり首を横に振った。
「私、ティモシーを探すわ。こうしてあなたに会えて、歌い手どうしお話できることが分かったんだもの。今までそんなことができるのかどうか、ちょっと確信が持てなかったのよ」
マヤルが言うと、
「そうだよ」
熊がすかさずあいづちを打った。
「【歌い手】が同時に二人も現れたなんてすごいことだよ。むささび老時代以来だ」
「まあ、以前にもあったの?」
「うん。ひきがえる師のすぐ後の時代だよ。やたら【歌い手】の来訪が増えた時期があって、何度かは【歌い手】がダブったこともあったの」
熊はマヤルの興味を引けたのが嬉しいのか、矢継ぎ早にまくしたてた。
「でもどの子も“わー、すごい”とか言ってすぐにかき消えちゃって、それっきり。むささび老は名前を聞くのがやっとで、歌を聞くひまもなかったって。もうひとりの【歌い手】と、こんなにじっくりお話できたのは、きっと初めてだよ」