月光に輝く芝生を踏んで、王さまとアリスはゆっくりと大庭園を横切っていった。
「ねえ、むささび老のようにお役目を解かれたら、そのときは猫さんも森へ姿を消してしまうの?」
アリスが言うと、王さまは首をかしげた。
「さて。獣の頭でしか考えられなくなるのだから、王宮に仕えていた間の記憶はもう理解できなくなっているだろうが」
手をつないだ二つの影が、庭園の起伏をなぞっていく。
「元が街の猫だから、普通に可愛がってやれば居ついてくれるんじゃないかな?」
「じゃあ、お城で飼ってもいいのね」
「服は着せるなよ」
アリスはぷっと吹き出した。
「私、猫さんがただの猫に戻ったときに、つけてあげる名前を思いついたの」
歩きながら、王さまは黙って聞いている。
「猫さんのお役目が終わっても、私たちと同じ時間のなかに存在して、一緒に世界を体験していけるように」
アリスが見つめ返すと、王さまもうなずいた。
「うん、それは良い名だ」
永劫の歌編■おわり