夢の歌
  
永劫の歌(12)
「その聴聞僧も、無宗教のおばあさまと、胸襟を開いた付き合いができた人だ。なかなか型破りな人物だったらしい。信徒の告白を私人として記憶してはならぬ、という掟を無視して父と語り合い、こう言ったそうだよ。


“王の力は、血ではございませぬ。永劫の精霊が、ご自身に似せてお作りになった我々小さな者たちは、王を名乗り、王と呼ばれることで、誰でもこの大地に命じる力を持つのです”」


 王さまは小さく肩をすくめた。
「豪胆な教義解釈だよな。誰でも王になれるとなったら、それこそ誰もが王位を狙うことになる。父が王家の血を継いでいないと公表しても、王としての仕事を立派に果たしていたことに変わりはないから、本当なら民衆に明かすべき性質のものなのだろうが、“現国王は王の子ではありませんでした、しかし王の資質は血筋とは関係なかったのでした”でねじ伏せようとしたのでは、やはり反発を呼んだだろう。特に、当時は辺境のことで大変な動揺があったばかりだったから」


「辺境の動揺というと……開拓地の解放のことか?」
 エストブが言葉をはさむ。王さまはうなずいて、アリスに顔を向けた。
「その少し前から、辺境キューダンソーで、広大な湿地帯の干拓工事が始まっていたんだよ」
 アリスはああ、と言って片手を頬にあてた。
「信仰王陛下の送り名候補に、開拓王や治水王もあったというのはそれでなの」
「そう、結局却下されたがね」
「何よりもまず、信仰ぶかいかただったのね」
「いや、あたりさわりのない所に納まったと言うべきか……。着工のとき、父は王として祝福の儀式に赴いたのだがね、どんな奇跡も起こすことができなかったんだ」
「まあ」


「王国はじまって以来のことで、動揺はすさまじかった。父はとっさにこう言った。


“この地は、額に汗して泥を掘り、水を押しのける人々のものであるべきだ。私はこの地に祝福を与えない代わり、忠誠を求めもしない。今はまだ静かな水の下に顔を隠しているこの地に、私は自由を与えよう。乾いた大地を勝ち取ったとき、あなたがたは私に、税金ではなく友情を返してくれないか”


 これは大変な熱狂をもって迎えられた。干拓工事は苦難の連続だったが、自治を約束した国王の言葉が励みになって、人々は困難を乗り越えた。しかし、土地は自分達の俸禄として与えられるものと思っていた貴族たちからの反発も、相当なものだったんだ」