永劫の歌(1)
世界がはじまる前、大地には永劫の精霊がいた。
永劫の精霊は永劫のときを、考え事に没頭して過ごした。
大地は荒涼としてなにもなく、ただ永劫のときの折々に、流れてくる星が固い地面に落ちて、かちん、かちんと音を立てた。
「これ、星よ」
あるとき精霊は、足元にころころと転がってきた星のかけらに言った。
「そのようにかちん、かちんとうるさく音をたてるのをやめよ。落ち着いて考え事ができぬ」
星のかけらは答えて言った。
「しかし、旦那さま。我らは永劫のかなたからはるばる旅して参りました。どうにも疲れ果てていて、ようやくたどり着いた大地に、このように倒れこんでしまうのでございます」
「それも無理からぬことだ」
そう言って精霊は
「地よ芽吹け」
大地に命じた。
すると見る間に緑の新芽が土を割り、なにもなかった大地のあちこちで、緑の草がふっくらとした葉をつけた。星はやわらかい葉の上に静かに落ち、旅の疲れを癒すことができた。
「これでよい」
精霊はまた考え事の続きに戻った。
しかしまた永劫のときが過ぎるうち、星のかけらが降りつもって、とうとう草を覆いつくしてしまった。精霊はふたたび、かちん、かちんという音に悩まされることになった。
「花よ開け」
精霊が命じると、かけらの下から茎が首をもたげ、蕾をつけて花を咲かせた。
「これでよい」
精霊は考え事に戻ったが、花は天を向いて咲いていたので、種をつけて株を増やす前に、落ちてきた星にぶつかって散ってしまった。
「天を向いてはいけない」
精霊が命じると、ふたたびかけらの下から茎が首をもたげ、今度はうつむいた蕾をつけて花を咲かせた。
「これでよい」
星がいくつも流れてきたが、大切に抱えた種は無事に育ち、花は種をまき散らした。新たな株が休むことなく次々に芽吹いたので、草は星のかけらに埋もれることがなかった。
精霊が考え事に戻ると、花園の上に星が落ちて、ちりんという音がした。
「良い音だ」
精霊はつぶやいたが、返事をするものは誰もいなかった。
また星が落ちて花がちりんと揺れ、それが隣の花にちりんとぶつかり、その花がまた隣の花にちりんと触れ、妙なる響きが花園じゅうを、洗うように走りぬけて消えた。
「誰か、今の不思議な音を聞いてみよ」
精霊が命じると、精霊の姿によく似た小さい人々が生まれて、星が流れるたび、精霊と一緒に花園の音に耳を傾けるようになった。
こうして世界がはじまった。