独房の鍵ががちゃがちゃ鳴り、食事の盆がやって来た。
「旦那さま、失礼いたします」
このしゅうしゅう言う西方訛りは、例のホラ吹き男だ。
「お前はええと、ガリーとか言ったな」
キザ野郎は、西方趣味まる出しの洒落のめした身なりをすっかり改め、髪もこざっぱりとまとめている。
「申し訳ございません。肉を焦がしたのはうちのやつでして」
食事の盆を指さしたので、見ると肉はどれも無残なことになっていた。ぱさぱさに煮詰まったのや焦げた部分をそぎ落としたらしいのや、とにかく悲しい有様だ。
「うちのやつって
…… ああ。結婚したのだったな、シュゼッタと」
「おお、お耳に入ってしまいましたか。もったいないことでございます」
もったいない言葉などまだ少しもかけてないのだが、ガリーはニコニコと中腰のままこちらを見ている。祝福を期待しているのだ。寄る辺ない虜囚からまだ何か取ろうというのか。畜生。
「おめでとう」
「はっ」
祝福にしてはケチりすぎたが、ガリーははしゃいで踵を鳴らし、私は頑固な肉をナイフで崩しにかかった。
「これはなかなか、手ごわい仕上がりだな」
「お取り替え申し上げようにも、保存肉の割り当ては一日これだけと決まっておりまして
…… 」
直立のまま、ガリーも不安げに肉の頑張りを見守っている。
「女房どのに、ぼんやりするのも程々にするよう伝えてくれ」
「は」
また踵を鳴らしたガリーは、へにゃりと笑みくずれている。
「きつく申しておきます。うちのは、しゃんとしていればとても旨いものを作るのです。ガサツな私なぞとは違って味付けがこまやかと言いますか、繊細と言いますか」
「分かった分かった。明日はぜひそれを頼む」
こんな幸せボケを量産することになるのだ、やはり戦地での兵士の結婚は禁じるべきだと思う。
「そうだ、旦那さま。クエイサ尼僧長のご都合がよろしいとのことでしたので、数日中にご面会がかないますよ」
「面会?」
ガリーはこくりとうなずいた。胸に下げているらしいお守りを、服の上から探っている。
「奇縁にて遠方よりはるばるお越しになり、我が伝道教会の教義に触れられた旦那さまが、改宗を決意されたことは、このうえなく喜ばしいことだとおっしゃっておいででした」
「改宗
…… かいしゅう」
西方訛りを聞き違えたか。私は眉をひそめて繰り返した。ガリーも首をかしげる。
「ネグトレンから、そのように聞きましたが? 近々、旧来の主君に不忠をなすことになりそうなので、新たな信仰をよすがに、神のご加護を願われたいとか」
「ネグトレンが言ったか。そうか」
確かに寝返りのポーズとして、土地の宗派への改宗はいい時間かせぎになりそうだ。
「うん。改宗するぞ。伝道教会派に」