干拓用の運河を渡ると、そろそろにぎやかな祭りの喧騒が聞こえ始める。ウィリアムはクスリと笑った。
「おかしな夢だったなあ。ちょっとずつ思い出して来た」
「さっきの、うたた寝の夢?」
「うん」
ウィリアムは懐かしそうな表情で空を見上げた。
「高貴な聴衆の前で歌い終わると、次は茶色いフカフカの獣に手を引かれて、小さな仕立て屋に引っ張り込まれるんだ。僕はフロックコートで正装していたんだが、何だかんだ言いくるめられて、上着からズボンから、身ぐるみはがされたと思うと」
サスキアがぷっと吹き出す。
「それを仕立て屋が作業台の上で、嬉々として切り裂いていく。僕はなすすべもなくただ眺めているんだ。オレンジ色の仔猫を膝に乗せてなでながら」
サスキアはクスクス笑って首を振った。
「なんだかシュールね。ディテールが細かくて」
「猫か。飼ってみるかな」
「うーん、私はちょっと」
「あれ、猫、キライだったかい?」
「あんまり可愛いと思えないの」
「へえ」
「猫って、急にしゃべり出しそうじゃない?」
「なんだい、そりゃ」
平べったい風景のはるか彼方には、サスキアの離した風船が、空の青に溶け込まない黄色い点となって、いつまでも漂っていた。
歌の翼に編■おわり